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横浜地方裁判所 昭和55年(行ウ)6号 判決

原告 共同商事株式会社 外五名

被告 横浜市戸塚区長

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告らに対し昭和五四年二月八日付けで別紙物件目録記載の各土地についてした別表(一)記載の昭和五三年分特別土地保有税及び不申告加算金の各賦課決定(ただし、いずれも昭和五五年二月四日付け横浜市長の裁決により取り消された部分を除く。)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  被告は、原告らに対し、昭和五四年二月八日付けで、別紙物件目録記載の各土地の取得につき、別表(一)「賦課決定」欄記載のとおり昭和五三年分の特別土地保有税(以下「本税」という。)及び不申告加算金の各賦課決定(以下「本件各処分」という。)をした。

2  原告らが、同年三月、被告の本件各処分につき横浜市長に対し審査請求をしたところ、同市長は、昭和五五年二月四日付けで、原告らに対する本税及び不申告加算金につき、同表「横浜市長の審査裁決」欄記載のとおり裁決をした。

3  しかしながら、原告らに対する本件各土地を取得したとしてされた本件各処分は、そもそも原告らは本件各土地を取得したことはないから地方税法五八五条以下の解釈を誤つたものであり、仮に原告らが本件各土地を取得したものであるとしても本件各土地の取得のために通常要する価額の認定を誤つたものであるから、違法である。

よって、原告らは、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1、2の事実はいずれも認める。

2  同3の主張は争う。

三  被告の主張

被告が原告らに対してした本件各処分は次のとおり適法である。

1  原告喜多商事株式会社関係

(一) 原告喜多商事株式会社(以下「原告喜多商事」という。)は、昭和五三年一月一三日、横浜地方裁判所における同庁昭和五〇年(ケ)第一六一号不動産任意競売事件の競売期日において、別紙物件目録記載(1)ないし(10)の土地(以下「本件(1)ないし(10)の土地」という。)一〇筆合計九七九・六二平方メートルにつき最高価で競買申出をなし、その後同月二〇日競落許可決定を受け(同年二月二二日右決定は確定)、同年六月二〇日右競買代金九八九万六〇〇〇円(ただし、うち九八万六〇〇〇円は競買申出保証金として納付済み)を払い込み、競落により右各土地の所有権を取得した。

(二) 同原告は、更に、昭和五三年三月二二日、後記のとおり後に原告喜多金属株式会社、同さくら興産株式会社、同東京エステート株式会社、同有限会社資源開発センター(以下「原告喜多金属ら四社」という。)が同地方裁判所において競買残代金を払い込み、競落により所有権を取得することになる別紙物件目録記載(11)ないし(17)の土地(以下(11)ないし(17)の土地」という。)七筆合計四二三三・四一平方メートルを二二六〇万二〇〇〇円で譲り受ける旨の契約を締結し、原告喜多金属らの競落により所有権を取得した。

(三)(1) ところで、土地を取得した場合には、本税のほかに不動産取得税(以下「取得税」という。)が賦課されることになつており、両税の二重賦課を避けるため、地方税法(以下「法」という。)五九六条二号により本税額から取得税額を控除するものとされている。

(2) 原告喜多商事の本件各土地取得当時の両税の税率はともに百分の三であり、取得税の課税標準は原則として固定資産税の課税標準となるべき価額であつたから、土地取得価額が右固定資産税課税標準となるべき価額と同額以下の場合、本税は賦課されないことになる。

(3) 原告喜多商事の本件一七筆の土地の取得価額、固定資産税課税標準となるべき価額、本税の賦課の有無は別表(二)各欄記載のとおりである。

(4) したがって、原告喜多商事取得の本件一七筆の土地のうち、本税賦課対象の七筆(同表「本税賦課の有無」欄に×印の記載のないもの)の取得価額の合計額は一八四〇万九〇〇〇円となる。

(5) 右七筆の土地の取得につき原告喜多商事に賦課される取得税額の合計額は七万九七四〇円である。

(6) よつて、原告喜多商事の右七筆の土地の取得に対して賦課される本税額は、次の算式により四七万二五三〇円である。

本税額=1840万9000円(取得価額)×0.03(税率)-7万9740円(取得税額)=47万2530円

(7) 原告喜多商事は、昭和五三年度の本税申告の期限までに所定の申告をしなかつたので、同原告に賦課すべき不申告加算金額は、次のとおり四万七二〇〇円である。

加算金額=47万2000円(本税額。ただし、100円未満の端数切捨て)×0.1(適用率)=4万7200円

2  原告喜多金属ら四社関係

(一) 原告喜多金属ら四社は、昭和五三年一月一三日、横浜地方裁判所における同庁昭和五〇年(ケ)第一六一号不動産任意競売事件の競売期日において、本件(11)ないし(17)の土地七筆合計四二三三・四一平方メートルにつき最高価で競買申出をなし、その後同月二〇日競落許可決定を受け(右決定は同年二月二二日確定)、同年六月二〇日右競買代金二二六〇万二〇〇〇円(ただし、うち二二六万〇二〇〇円は競買申出保証金として納付済み)を払い込み、競落により右土地の所有権を取得した。

(二) 原告喜多金属ら四社の本件(11)ないし(17)の土地の取得は、次のとおり法五八五条四項にいう「特殊関係者が取得した土地について特別の事情がある場合」に該当する。

(1) 原告喜多金属ら四社においては、その発行済株式総数若しくは総持分のそれぞれ九九パーセント、五二パーセント、一〇〇パーセント、八五パーセントを喜多正男、同人の妻孝子、長男秀正、長女淑子、次女純子、弟正行らが保有しており、原告喜多金属ら四社はいずれも喜多正男の同族会社であり同原告会社ら四社は相互に「特殊関係者」に該当する。

(2) 右原告喜多金属ら四社が取得した本件(11)ないし(17)の七筆の土地は一団の土地を形成しており、かつ、右四社らの本件各土地の取得が本税の負担を不当に免れさせる結果をもたらすものであるから、右は法五八五条四項、同法施行令(以下「施行令」という。)五四条の一三の二項にいう「特別の事情」がある場合に該当する。

(三)(1) 前記1(三)(1)、(2)のとおり土地を取得した場合には本税のほか不動産取得税が賦課されるので同税額を本税額から控除することになるところ、本件(11)ないし(17)の土地の取得価額、固定資産税課税標準となるべき価額、本税賦課の有無は前記別表(二)各欄記載のとおりである。

(2) したがつて、原告喜多金属ら四社取得の本件七筆の土地のうち、本税課税対象の二筆(同別表「本税賦課の有無」欄に×印の記載のないもの)の取得価額の合計は九二九万一〇〇〇円となる。

(3) 右二筆の土地の取得につき原告喜多金属ら四社に賦課される取得税額は合計四万六一四〇円である。

(4) よつて、右原告喜多金属ら四社の右二筆の土地の取得に対して賦課される本税額は、次の算式により二三万二五九〇円である。

本税額=929万1000円(取得価額)×0.03(税率)-4万6140円(取得税額)=23万2590円

(5) また、原告喜多金属ら四社は、昭和五三年度の本税申告期限までに所定の申告をしなかつたので、同原告らに賦課すべき不申告加算金額は、次のとおり二万三二〇〇円である。

加算金額=23万2000円(本税額。ただし、1000円未満切捨て)×0.1(適用率)=2万3200円

3  原告共同商事株式会社関係

(一) 原告共同商事株式会社(以下「原告共同商事」という。)は、昭和五三年三月二二日、原告喜多商事から後日同原告が横浜地方裁判所で競落により所有権を取得することになつている本件(1)ないし(10)の土地及び同日同原告が原告喜多金属ら四社から買い受けた右原告ら四社が同地方裁判所で競落により所有権を取得することになつている本件(11)ないし(17)の土地、すなわち、本件(1)ないし(17)の土地全部一七筆合計五二一三・〇三平方メートルを合計五二〇〇万円で買い受けた。

その後、原告喜多商事、同喜多金属ら四社は、同年六月二〇日同地方裁判所に本件(1)ないし(17)の土地の競売残代金を払い込み右各土地の所有権を取得し、その結果、原告共同商事も同日、本件各土地の所有権を取得した。

(二) 原告共同商事の右五二〇〇万円での本件(1)ないし(17)の一七筆の土地の取得は、次のとおり法五九三条二項にいう「著しく低い価額による土地の取得」に該当するから、本税を賦課するについては、同条及び施行令五四条の三四第二項一号により右各土地を取得するために通常要する価額をもつて取得価額とみなすべきである。

(1) 法五九三条二項、施行令五四条の三四第二項一号にいう「著しく低い価額」とは、時価からみて相当低い価額であり、具体的には国の税務官署の扱い、すなわち所得税法五九条及び同法施行令一六九条に準じて当該取得価額が当該土地の取得に通常要する価額すなわち時価の二分の一に満たない場合がこれに該当するものというべきである。

(2) そこで、本件(1)ないし(17)の土地の「取得のために通常要する価額」(以下「比準相当価額」ということがある。)を、法三八八条一項により自治大臣が告示した「固定資産評価基準」によって定めた「横浜市固定資産評価事務取扱要領」(以下「評価要領」という。)の評価方法を用いて算出すると次のとおりである。

(イ) まず、本件各土地の比準相当価額の一平方メートル当たり平均単価を、右土地と同一の近隣地域に存する「神奈川県調査基準地」(地価公示法所定の公示地の不足地点を補うため国土利用計画法施行令九条一項の規定により設けられた公示地と同様の性格をもつもの。本件についていえば横浜市戸塚区戸塚町四六〇〇番一三土地)の価額(一平方メートル当たり六万七〇〇〇円)から、同基準地及び本件各土地の一平方メートル当たりの固定資産評価の正面路線価額(それぞれ二万三〇〇〇円及び二万二〇〇〇円)の比率に従つて推計算出すると、次のとおり六万四〇八六円となる。

平均単価=6万7000円(基準地価額)×2万2000円/2万3000円(比率)=6万4086円

(ロ) 次に、本件(1)ないし(17)の土地について前記評価要領により別紙「各筆の比準相当価額の算出について」記載のとおり、崖、法(のり)、傾斜角度、地形(じがた)等の個別的な要因を考慮して各筆の比準相当価額(「一平方メートル当たりの単価」、「各筆毎の総価額」及びその「二分の一相当額」)を算出すると別表(三)「各筆の比準相当価額」欄記載のとおりとなる。

(3) 次に、原告共同商事取得の本件一七筆の土地の合計取得価額五二〇〇万円を各筆の固定資産税課税標準となるべき価額で按分算出すると各筆毎の取得価額は同表「算出取得価額」欄記載のとおりとなる。

(4) そこで、本件一七筆の土地につき同表記載の比準相当価額の「二分の一相当額」と右「算出取得価額」を比較すると一七筆全部につき「算出取得価額」の方が下回っている。

(5) その結果、原告共同商事の本件一七筆の土地取得は、すべて法五九三条二項にいう「著しく低い価額による土地の取得」に該当し、右各土地の取得につき本税を賦課するに当たつては右比準相当価額(総額)をもつて取得価額とみなさなければならない。したがつて、原告共同商事取得の本件一七筆の土地の比準相当価額(総額)の合計は一億一七三九万七〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)となる。

(6) 前記1(三)(1)、(2)のとおり、土地を取得した場合には本税のほか不動産取得税が賦課されるので同税額を本税額から控除することになるところ、原告共同商事の取得した本件一七筆の土地の取得価額(比準相当価額)及び固定資産税課税標準となるべき価額は、それぞれ別表(三)「比準相当価額」欄及び別表(二)「固定資産税課税標準となるべき価額」欄記載のとおりであつて、本件一七筆全部につき取得価額(比準相当価額)が固定資産税課税標準となるべき価額を上回つているから、同原告の右一七筆全部の取得につき本税が賦課されることになる。

(7) 原告共同商事の本件一七筆の土地の取得につき賦課される取得税額は合計一一九万五三二〇円である。

(8) よつて、原告共同商事の本件一七筆の土地取得に対して賦課される本税額は、次の算式により二三二万六五九〇円である。

本税額=1億1739万7000円(本件17筆の土地の比準相当価額合計)×0.03(本税率)-119万5320円(取得税額)=232万6590円

(9) また、原告共同商事は、昭和五三年度の本税の申告期限までに所定の申告をしなかつたので、同原告に賦課すべき不申告加算金は、次のとおり二三万二六〇〇円である。

加算金額=232万6000円(本税額。ただし、1000円未満の端数切捨て)×0.1(適用率)=23万2600円

四  被告の主張に対する原告らの認否

1  原告喜多商事

(一) 被告の主張1(一)の事実のうち、原告喜多商事が本件(1)ないし(10)の土地につき横浜地方裁判所昭和五〇年(ケ)第一六一号不動産任意競売事件の競売期日において最高価で競買の申出をなし、競落許可決定を受け、同決定が確定した事実は認め、その余の事実は否認する。

(二) 同1(二)の事実は否認する。

原告喜多商事は、昭和五三年三月二二日、原告喜多金属ら四社の代理人として原告共同商事に対して本件(1)ないし(17)の土地の競落権を譲渡したものであつて、原告喜多金属ら四社から右各土地の所有権はもとより、競落権をも取得していない。

(三)(1) 同1(三)(1)ないし(3)の事実はすべて認める。

(2) 同1(三)(4)の事実は否認する。

(3) 同1(三)(5)の事実は認める。

(4) 同1(三)(6)の主張は争う。

(5) 同1(三)(7)のうち、原告喜多商事が昭和五三年度の本税の申告期限までに所定の申告をしなかつた事実は認め、その余の主張は争う。

2  原告喜多金属ら四社

(一) 同2(一)の事実のうち、原告喜多金属ら四社が本件(11)ないし(17)の土地につき横浜地方裁判所昭和五〇年(ケ)第一六一号不動産任意競売事件の競売期日において最高価で競買の申出をなし、競落許可決定を受け、同決定が確定した事実は認め、その余の事実は否認する。

(二) 同2(二)の事実はいずれも否認し、法的主張は争う。

(三)(1) 同2(三)(1)の事実は認める。

(2) 同2(三)(2)の事実は否認する。

(3) 同2(三)(3)の事実は認める。

(4) 同2(三)(4)の主張は争う。

(5) 同2(三)(5)のうち、原告喜多金属ら四社が昭和五三年度の本税の申告期限までに所定の申告をしなかつた事実は認め、その余の主張は争う。

3  原告共同商事

(一) 同3(一)の事実は否認する。

(二) 同3(二)冒頭の主張は争う。

(1) 同3(二)(1)の主張は争う。

(2) 同3(二)(2)の事実は知らない。法的主張は争う。

(3) 同3(二)(3)の事実は知らない。

(4) 同3(二)(4)、(5)の主張は争う。

(5) 同3(二)(6)の主張のうち前段の一般論は認め、後段は争う。

(6) 同3(二)(7)の事実は否認する。

(7) 同3(二)(8)の主張は争う。

(8) 同3(二)(9)のうち、原告共同商事が昭和五三年度の本税の申告期限までに所定の申告をしなかつた事実は認め、その余の主張は争う。

五  原告らの反論

1  原告喜多商事

原告喜多商事は、競落許可決定後競買代金払込期日までに本件(1)ないし(10)の土地の最高価競買人の地位(以下「競落権」という。)を原告共同商事に譲渡し、同原告は即日右競落権を更に東和プラント株式会社(以下「東和プラント」という。)に譲渡し、同会社が原告喜多商事名義で競買残代金を裁判所に払い込み、直接右各土地の所有権を取得したもので、原告喜多商事は右各土地の所有権を取得していない。

2  原告喜多金属ら四社

原告喜多金属ら四社は、原告喜多商事を代理人として、昭和五三年三月二二日本件(11)ないし(17)の土地の競落権を原告共同商事に譲渡し、同原告は即日右競落権を更に東和プラントに譲渡し、同会社が原告喜多金属ら四社名義で裁判所に競買残代金を払い込み、直接右各土地の所有権を取得したもので、原告喜多金属ら四社は右各土地の所有権を取得していない。

3  原告共同商事

(一) 原告共同商事は、昭和五三年三月二二日いずれも競落人である原告喜多商事、同喜多金属ら四社から譲り受けた本件(1)ないし(17)の土地の競落権を即日更に東和プラントに譲渡し、同会社が原告喜多商事、同喜多金属ら四社名義で裁判所に競買残代金を払い込み、直接右各土地の所有権を取得したもので、原告共同商事は右各土地の所有権を取得していない。

(二) 原告共同商事は、原告喜多商事から本件一七筆の土地の競落権の譲渡を受けたもので、所有権の譲渡を受けたものではない。

右にいう競落権譲渡契約は次のような内容のもので、競売目的不動産自体の譲渡契約とは異なるものである。すなわち、

(1) 不動産の競売期日に最高価額をつけた最高価競買申出人が裁判所に競買保証金を納付すると、裁判所は同人に対し競落許可決定の裁判をし、これにより同人は競買残代金を納付することにより競売目的不動産の所有権を取得し得る地位を獲得する。

右最高価競買申出人の地位には、経済的価値が認められ、いわゆる「競落権」と称されて経済取引の対象とされている。

(2) 右競落権は、次の付帯条件を付して、競買保証金に手数料と利益を加算した額で取引されている。

(イ) 競買残代金は競落権譲受人が競落人名義で納付する。

(ロ) 所有権移転及びその他の抹消登記手続の登録免許税は競落権譲受人が負担する。

(ハ) 競落許可決定の取消し、競売開始決定の取消し等により競落権が消滅した場合には、競落権譲渡人は譲受人に対し既に受領済みの金員を返還するをもつて足りる。

(3) 裁判所も、従来競落権の譲渡を認め、競落権譲受人が競落権を譲り受けた旨を上申すると、以後右競落権譲受人を競落人として取り扱い、競買残代金の払込通知、競落不動産の所有権移転登記手続等につき同人に対し直接手続を進めていた。

(4) ところが、裁判所は、最近に至り、事務の繁雑等を理由として競落権譲渡の取扱いを認めなくなり、競落権譲渡が上申されてもこれを無視して競落人すなわち競落権譲渡人に対し以後の競売手続を進めるようになつたが、当事者間で競落権譲渡契約そのものが有効であることは依然認めている。

(5) そこで、現在競落権譲渡契約において、競落権譲受人は競落人すなわち競落権譲渡人名義で競買残代金を納付することとし、競落不動産の所有権移転登記がいつたん競落人の名義にされるため、競落人は競落権譲受人に対し、事前に所有権移転登記手続のため、委任状、印鑑証明書を交付する慣行となつている。

(6) したがつて、競落権の譲渡があつた場合には、登記簿上は競落人がいつたん競落により競売目的不動産の所有権を取得し、直ちに競落権譲受人に対し所有権移転登記手続をなしたように記載されているが、実質は競落権譲渡により競売目的不動産の所有権が被競売申立人から直接競落権譲受人に移転するものである。

(7) そこで、競落権譲渡と競売目的不動産の譲渡との相違点を列挙すれば次のとおりである。

(イ) 契約目的物について

競落権譲渡契約においては、最高価競買人たる地位が契約の目的物となつているのに対し、競売目的不動産すなわち他人の物の売買契約においては、競売に付されている不動産そのものが契約の目的物である。

(ロ) 売買契約の代金額について

競落権譲渡契約の代金額は、競買保証金(原則として競買代金額の一割の金員)に手数料と利益を付加した額であり、競買代金額よりはるかに低額であるのに対し、他人の物の売買契約の代金額は、他人の物である競売目的不動産の競買代金額に利益を付加した額である。

(ハ) 所有権取得、移転義務について

競落権譲渡契約においては、譲渡人は競落不動産の所有権を取得して、これを譲受人に移転する義務はないのに対し、他人の物の売買である競売目的不動産の譲渡契約では、売主譲渡人は右不動産の所有権を取得して譲受人に移転する義務がある。

競落権を譲り受けた者が更にこれを第三者に譲渡した場合、中間の競落権譲受人は不動産任意競売手続から完全に離脱し無関係となり、最終の競落権譲受人が競落人から直接所有権移転登記を受けることになる。

(三) 仮に、原告共同商事が競落権を譲り受けたのではなく、本件(1)ないし(17)の土地の所有権を譲り受けたものであるとしても、

(1) 右各土地は横浜地方裁判所の不動産任意競売手続において三二四九万八〇〇〇円で競落されたものであるから、右競落価額に適正利益を加算した金額である四〇〇〇万円程度が右各土地の適正な時価であつて、被告主張の比準相当価額の一億一七三九万七〇〇〇円を取得のために通常要する価額とするのは過大である。

(2) そうすると、同原告の右各土地取得価額は二二七五万一八〇〇円であるところ、これは著しく低い価額による取得ではないから、右取得価額の百分の三から取得税額一一九万五三二〇円を控除するとマイナスとなり本税額は零となる。

(3) 仮に、被告主張のように同原告の右各土地取得価額が右の二二七五万一八〇〇円に競買残代金二九二四万八二〇〇円を加算した金五二〇〇万円であるとしても、右は著しく低い価額による取得には当たらず、右取得価額の百分の三から取得税額一一九万五三二〇円を控除した額が同原告の本税額である。

(4) 仮に、原告共同商事の五二〇〇万円の価額による本件各土地の取得が比準相当価額と比較して著しく低い価額による土地の取得に該当するとしても、被告は、原告喜多商事、同喜多金属ら四社に対しては、競落代金額による本件各土地の取得につき著しく低い価額による取得に該当するか否かを検討せず、したがつて比準相当価額により本税を賦課していないのであるから、原告共同商事に対してのみ本件各土地の取得を著しく低い価額による取得に該当するとして比準相当価額により本税を賦課することは、課税の公平を害し違憲、違法である。

六  原告らの反論に対する被告の認否

1  原告らの反論1の事実は否認し、法的主張は争う。

2  同2の事実は否認し、法的主張は争う。

3(一)  同3(一)の事実は否認し、法的主張は争う。

(二)  同3(二)の主張は争う。

(三)(1)  同3(三)(1)の事実のうち、本件(1)ないし(17)の土地が横浜地方裁判所における不動産任意競売手続において三二四九万八〇〇〇円で競落された事実は認め、その余の事実は否認し、法的主張は争う。

(2)  同3(三)(2)、(3)の事実はいずれも否認し、法的主張は争う。

(3)  同3(三)(4)の事実のうち、原告共同商事の五二〇〇万円の価額での本件(1)ないし(17)の土地の取得が比準相当価額と比較して著しく低い価額による取得に該当する事実及び被告が原告喜多商事、同喜多金属ら四社の競落金額での本件各土地の取得につき著しく低い価額による取得に該当するか否かを検討せず、したがつて同原告らに比準相当価額により本税を賦課しなかつた事実は認め、その余の事実は否認し、法的主張は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1、2の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  原告喜多商事、同喜多金属ら四社関係

1  原告喜多商事の本件(1)ないし(10)の土地の競落による取得

(一)  原告喜多商事が昭和五三年一月一三日横浜地方裁判所昭和五〇年(ケ)第一六一号不動産任意競売事件の競売期日において本件(1)ないし(10)の土地一〇筆合計九七九・六二平方メートルにつき最高価で競買申出をなし、競買申出保証金を裁判所に払い込み、その後同月二〇日競落許可決定を受け、同年二月二二日右決定が確定した事実は当事者間に争いがない。

(二)  いずれも成立に争いのない乙第一号証の一、第五号証の二ないし六、同号証の九、同号証の一一ないし一四、第一五号証、前記当事者間に争いのない事実並びに弁論の全趣旨によると、その後同年六月二〇日原告喜多商事名義で本件(1)ないし(10)の土地の競買残代金(八九〇万六四〇〇円)が裁判所に払い込まれた事実を認めることができる。

(三)  以上によると、原告喜多商事は、本件(1)ないし(10)の土地の所有権を前記不動産競売手続において競落により取得したものというべきである。

(四)  なお、原告喜多商事は、同原告は前記競落許可決定(確定)後本件(1)ないし(10)の土地の競落権を原告共同商事に譲渡し、原告共同商事はこれを更に東和プラントに譲渡し同会社が原告喜多商事名義で競買残代金を払い込み直接本件各土地の所有権を取得したもので原告喜多商事は本件各土地の所有権を取得していない旨反論するので、この点につき検討するに、前掲乙第五号証の二ないし六、同号証の九、同号証の一一ないし一四によると、本件各土地については原告喜多商事に対し昭和五五年一月二〇日の競落を原因とする所有権移転登記が経由されている事実が認められ、更に後記三1(二)のとおり原告喜多商事、同共同商事間の競落権譲渡契約書(前掲乙第一号証の一)においては原告喜多商事がいつたん本件各土地の所有権を取得することを当然の前提とした文言が用いられている事実が認められるほか、理論的に考えても、競落許可決定の確定により競落人は競買残代金支払義務を負い右競買残代金完納の時点で競売目的不動産の所有権を取得することになるところ、競落許可決定をなすに当たつては競落不許可事由の存否等を競売裁判所が審査しかつ利害関係人にも右決定につき即時抗告の機会が与えられていること、他方競売法及び民事訴訟法(昭和五五年法四号による改正前のもの。以下同じ)にはいわゆる競落権譲渡につき何らの規定がおかれていないこと等に鑑みれば、競落許可決定(確定)後において競売目的不動産につきいわゆる競落権譲渡がなされ競落人からその旨競売裁判所に上申がなされたとしても、競売裁判所はこれを顧慮することなくそのまま従前の競落人につき競売手続を進め同人に競買残代金を払込ませる以外の方法は考えられない、すなわち競売裁判所との関係では競落許可決定(確定)後の競落権譲渡は効力を生ずるに由ない(昭和五三年一月当時横浜地方裁判所における不動産競売手続において、右と異なる任意競売手続が採られていたと認めるに足りる証拠はない。)のであるから、競落人が競買残代金完納によりいつたん競売目的物件の所有権を取得するものというべきであり、原告喜多商事の前記反論は失当であつて理由がないものといわなければならない。

2  原告喜多金属ら四社の本件(11)ないし(17)の土地の競落による取得

(一)  原告喜多金属ら四社が昭和五三年一月一三日前記不動産任意競売事件の競売期日において本件(11)ないし(17)の土地七筆合計四二三三・四一平方メートルにつき最高価で競買申出をなし、競買申出保証金を裁判所に払い込み、その後同月二〇日競落許可決定を受け、同年二月二二日右決定が確定した事実は当事者間に争いがない。

(二)  前掲乙第一号証の一、第一五号証、いずれも成立に争いのない乙第五号証の一、七、八、一〇、同号証の一五ないし一七並びに弁論の全趣旨によると、その後同年六月二〇日原告喜多金属ら四社名義で本件(11)ないし(17)の土地の競買残代金が裁判所に払い込まれた事実を認めることができる。

(三)  以上によると、原告喜多金属ら四社は、本件(11)ないし(17)の土地の所有権を横浜地方裁判所昭和五〇年(ケ)第一六一号不動産(任意)競売手続において競落により取得したものというべきである。

(四)  なお、原告喜多金属ら四社の、同原告らは前記競落許可決定(確定)後本件(11)ないし(17)の土地の競落権を原告喜多商事を代理人として原告共同商事に譲渡し、原告共同商事は更にこれを東和プラントに譲渡し、同会社が原告喜多金属ら四社名義で競買残代金を払い込み直接本件各土地の所有権を取得したもので、原告喜多金属ら四社は本件各土地の所有権を取得していない旨の反論が失当であることは前記1(四)説示のとおりである。

3  原告喜多商事の本件(11)ないし(17)の土地の取得

(一)  前掲乙第一号証の一、前記2認定の事実並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告喜多金属ら四社は、同原告らが昭和五三年三月二二日競落により所有権を取得することになる本件(11)ないし(17)の土地七筆合計四二二三・四一平方メートルにつき、右所有権取得に先立ち、譲渡代金二二六〇万二〇〇〇円で原告喜多商事との間で後記三1の同原告が原告同商事との間で締結した契約と同趣旨の競落権譲渡契約を締結した事実が認められる。

(二)  原告喜多金属ら四社と同喜多商事との間の前記(一)の契約は、後記三1で同原告と原告共同商事との間の競落権譲渡契約につき詳細に説示するとおり、その実質において、原告喜多金属ら四社が、自己が最高価で競買申出をなし、既に競落許可決定を受けている本件各土地を、競買残代金払込みに先立つて、すなわち、未だ所有権取得前に他人である被競売申立人所有不動産として売却するいわゆる他人の物の売買に該当するものと解するのが相当である。

(三)  前記2(三)認定のとおりその後同年六月二〇日原告喜多金属ら四社は本件(11)ないし(17)の土地の所有権を競落により取得したのであるから、その結果原告喜多商事は、同日右土地七筆合計四二三三・四一メートルの所有権を取得したものと認められる。

(四)  なお同原告の、同原告は前記競落許可決定(確定)後本件(11)ないし(17)の土地の競落権を原告共同商事に譲渡し、同原告はこれを更に東和プラントに譲渡し、同会社が競落人である原告喜多金属ら四社名義で競買残代金を払い込み、直接本件各土地の所有権を取得したもので原告喜多商事は本件各土地の所有権を取得していない旨の反論に理由がないことは前記1(四)説示のとおりである。

4  原告喜多商事に対する本税額

右のとおり原告喜多商事及び原告喜多金属ら四社が、昭和五三年六月二〇日、法五九五条一号(本件土地の存する横浜市戸塚区が地方自治法二五二条の一九のいわゆる政令指定都市の区に該当することは当裁判所に顕著である。)所定の免税点二〇〇〇平方メートルを超えるそれぞれ五二一三・〇三平方メートル及び四二三三・四一平方メートルの本件各土地の所有権を取得した事実が明らかであるから、進んで右原告らに対する本税額について検討する。

(一)  右原告らの本件各土地取得当時、土地の取得に対しては、本税の他に、法七三条以下により不動産取得税が賦課されることになつており、両税の二重賦課を避けるため法五九六条二号により本税額から取得税額を控除するものとされていた。

(二)  そして、法七三条の一三、同条の一五、五九三条、五九四条、五九六条二号、施行令五四条の三八によると、右原告らの本件各土地取得当時の本税及び取得税の税率はともに百分の三、本税の課税標準は原則として土地の取得価額、取得税の課税標準は原則として土地の取得価額、取得税の課税標準は原則として固定資産税の課税標準となるべき価額、であつたから、土地取得価額が右固定資産税課税標準となるべき価額と同額以下の場合には、本税は賦課されないことになつていた。

(三)  原告喜多商事の本件(1)ないし(17)の土地一七筆の取得価額、固定資産税課税標準となるべき価額、本税賦課の有無については別表(二)各欄記載のとおりである事実はいずれも当事者間に争いがないので、同原告取得の本件一七筆の土地のうち、本税賦課の対象となるのは、本件(1)ないし(3)、(6)、(8)、(11)、(12)の七筆の土地であつて、その取得価額の合計額は一八四〇万九〇〇〇円となる。

(四)  そして、右七筆の土地の取得につき原告喜多商事に賦課される取得税額の合計額が七万九七四〇円である事実は当事者間に争いがないので、結局、同原告の右七筆の土地の取得につき賦課される本税額は次の算式により四七万二五三〇円となることは計数上明らかである。

本税額=1840万9000円(7筆の取得価額合計)×0.03(本税率)-7万9740円(7筆の取得税額合計)=47万2530円

(五)  また、原告喜多商事が昭和五三年度の本税の申告期限までに所定の申告をしなかつた事実は当事者間に争いがなく、法六〇九条によると、右当時の本税の不申告加算金の適用率は本税額の一〇〇分の一〇、右加算金額を計算する場合においてその計算の基礎となる本税額に一〇〇〇円未満の端数があるときはその端数金額を切捨てる(法二〇条の四の二第四項)ことになつていたので、同原告に賦課される本税の不申告加算金額は、次の算式により四万七二〇〇円となることは計数上明らかである。

加算金額=47万2000円(本税額。ただし、1000円未満端数切捨て)×0.1(適用率)=4万7200円

5  原告喜多金属ら四社に対する本税額

(一)  特殊関係者の土地取得について

原告喜多金属ら四社は、次のとおり、法五八五条四項にいう特殊関係者に該当し、同原告らは共同して法五九五条一号所定の免税点を超える四二三三・四一平方メートルの本件各土地を取得したことが認められる。

(1) いずれも成立に争いのない乙第二号証の二ないし五並びに弁論の全趣旨によると、原告喜多金属、同東京エステート株式会社、同さくら興産株式会社、同有限会社資源開発センター(変更前の商号は有限会社楡園)においては、それぞれその発行済株式数(前三者)もしくは総持分(後者)の九九パーセント、五二パーセント、一〇〇パーセント、八五パーセントを喜多正男と同人の妻孝子、長男秀正、長女淑子、次女純子、弟正行らが保有している事実が認められるので、原告喜多金属ら四社は、いずれも法五八五条四項、一一条の四第一項にいう喜多正男の同族会社、すなわち法人税法二条一〇号に規定する会社に該当するものと認められる。

(2) 前掲乙第五号証の一、七、八、一〇、同号証の一五ないし一七、成立に争いのない乙第一〇号証並びに弁論の全趣旨によると、原告喜多金属ら四社が取得した本件各土地は相互に隣接する一団の土地を形成している事実及び右四社ら各自の本件各土地の取得面積はいずれも一社では法五九五条一号所定の免税点二〇〇〇平方メートル以下であるが四社合せると四二三三・四一平方メートルである事実が認められるので、原告喜多金属ら四社の本件各土地の取得は施行令五四条の一三第二項にいう「本税の負担を不当に減少させる結果にならない場合」という除外事由には該当しないものと認められる。

(3) 右のとおりであるから、原告喜多金属ら四社の本件七筆の土地の取得は、法五八五条四項にいう「特殊関係者を有する者がある場合に当該特殊関係者が取得した土地について政令で定める特別の事情があるとき」に該当し(施行令五四条の一三第二項)、本税の賦課については同原告らが右各土地を共有するものとみなされることになる。

(二)  前記4(一)、(二)説示のとおり本税額の算定に当たつては右各土地の取得につき賦課される不動産取得税額を控除すべきものであるところ、原告喜多金属ら四社の本件(11)ないし(17)の土地七筆の取得価額、固定資産税課税標準となるべき価額、本税賦課の有無については別表(二)各欄記載のとおりである事実はいずれも当事者間に争いがないので、同原告ら四社取得の本件七筆の土地のうち本税賦課の対象となるのは、本件(11)、(12)の二筆の土地であつて、その取得価額の合計額は九二九万一〇〇〇円となることは計数上明らかである。

(三)  そして、右二筆の土地の取得につき原告喜多金属ら四社に賦課される取得税額の合計額が四万六一四〇円である事実は当事者間に争いがないので、結局、同原告らの右二筆の土地の取得につき賦課される本税額は次の算式により二三万二五九〇円となることは計数上明らかである。

本税額=929万1000円(2筆の取得価額合計)×0.03(本税率)-4万6140円(2筆の取得税額の合計)=23万2590円

(四)  また、原告喜多金属ら四社が昭和五三年度の本税の申告期限までに所定の申告をしなかつた事実は当事者間に争いがなく、法六〇九条によると、右当時の本税の不申告加算金の適用率等は前記4(五)のとおりであつたから、同原告に賦課される本税の不申告加算金額は、次の算式により二万三二〇〇円となることは計数上明らかである。

加算金額=23万2000円(本税額。ただし、1000円未満端数切捨て)×0.1(適用率)=2万3200円

三  原告共同商事関係

1  原告共同商事の本件各土地の取得

(一)  前掲乙第一号証の一並びに弁論の全趣旨によると、原告共同商事は、昭和五三年三月二二日原告喜多商事との間で、本件(1)ないし(17)の土地につき、次の内容の競落権譲渡契約と称する契約(以下「本件契約」という。)を締結した事実を認めることができる。

すなわち、

(1) 原告喜多商事は、原告共同商事に対し、自己の競落した不動産(すなわち、本件(1)ないし(17)の土地)に関する権利を競買保証金三二四万九八〇〇円に手数料、利益として一九五〇万二〇〇〇円を付加した金二二七五万一八〇〇円で譲渡する(前掲乙第一号証の一、本件契約書第一項)。

(2) 譲受人原告共同商事は、本件(1)ないし(17)の土地の競買残代金を再競売期日の五日前までに競落人原告喜多商事名義で裁判所に払い込むものとし、もし右期限内に同原告がこれを払い込まないときは、譲渡人原告喜多商事は何らの通知をすることなく自ら競買残代金を裁判所に払い込み本件各土地の所有権を取得することができる(同第二、三項)。

(3) 競落による所有権移転登記の登録免許税及び不動産取得税は、譲受人原告共同商事の負担とし、登録免許税は競買残代金払い込みの際裁判所に納付し、不動産取得税は相当額をあらかじめ競落人原告喜多商事に預託する(同第四項)。

(4) 本件土地に関する競売事件が競売開始決定若しくは競落許可決定の取消等により完結し、競落人原告喜多商事が本件各土地を取得できなくなつたときは本契約は無効とし、原告喜多商事は、原告共同商事から受領した金員を返還しなければならない(同第五項)。

(5) 原告喜多商事は、登記義務者として、本件各土地の所有権移転登記手続に必要な書類を原告共同商事の請求があり次第交付する(同第六項)。

(二)  しかしながら、本件契約は、形式的・表面的には競落権譲渡の形態を装つているものの、

(1) 不動産の任意競売手続においては、制度の趣旨からして、競落人(競落許可決定名宛人)が競買残代金を払い込んだとき競売目的不動産の所有権を取得し、右競落人以外の者が直接競落により競売目的不動産の所有権を取得することはありえず、また前記二1(四)のとおり理論的にも競落許可決定確定後の競落権の譲渡は到底競売法及び民事訴訟法の認めるところとは解されないところ、前掲乙第一号証の一、第一五号証並びに弁論の全趣旨によると、原告喜多商事、同共同商事はいずれも競売裁判所たる横浜地方裁判所のいわゆる競落権譲渡を認めない競売手続事務処理方針を熟知して本件契約をなしていることが認められること(本件契約における競落人名義での競買残代金払込方法はまさにその証左というべきである。)、

(2) 前掲乙第五号証の一ないし一七によると、本件各土地の競落による所有権移転登記は原告共同商事及び更に原告から競落権を譲受けたと称している東和プラントではなく競落人である原告喜多商事、同喜多金属ら四社に対してなされていること、

(3) 前記(一)認定のとおり、本件契約においては、本件土地に関する任意競売事件が競売開始決定もしくは競落許可決定の取消し等により完結し競落人原告喜多商事が本件各土地を取得できなくなつたときは本契約は無効とする旨(乙第一号証の一、第五項)及び競落人喜多商事は登記義務者として本件各土地の所有権移転登記手続をなすに必要な書類を譲受人原告共同商事の請求があり次第交付する旨(乙第一号証の一、第六項)合意されており、右各合意は原告喜多商事がいつたん自己が競落により本件各土地の所有権を取得することを前提としていること、

(4) 前記(一)認定のとおり、本件契約における表面上の本件各土地に関する権利の譲渡価額は総額金二二七五万一八〇〇円であるが、右表面上の譲渡価額に本件契約第三項により原告共同商事の実質的負担となる本件各土地の競買残代金二九二四万八二〇〇円を加算すると丁度五二〇〇万円という極めて「きり」のよい金額となり、右金額こそ原告喜多商事、同共同商事の契約当事者間では本件各土地の実質的譲渡価額として合意されたものと考えられること、

(5) 前記(一)認定のとおり、本件契約においては、原告共同商事が競買残代金を原告喜多商事に代つて内部的・実質的に負担する(乙第一号証の一、第二項)旨合意されているが、かように、物件譲受人が物件譲渡人に代つて内部的・実質的に第三者に対する債務を負担し、右負担分を代金額で調整する例は他人の物件の売買や抵当権の負担ある物件の売買等においては比較的多く見受けられるものであること、

等に照らしてみると、本件契約は、実質的には、被告が主張するとおり、原告共同商事と競落人原告喜多商事との間の、未だ競買残代金払込前の段階における被競売申立人所有の他人の物たる本件各土地の所有権の売買契約と解するのが相当であつて、原告共同商事の本件契約の目的物は本件各土地の競落権である旨の反論は到底採用することができない。

(三)  原告喜多商事は、前記二1、3のとおり昭和五三年六月二〇日本件(1)ないし(17)の土地の所有権を取得したのであるから、原告共同商事も、同日、五二〇〇万円の対価をもつて法五九五条一号所定の免税点を超える本件(1)ないし(17)の土地一七筆合計五二一三・〇三平方メートルの所有権を取得したものというべきである。

なお、原告共同商事の、同原告は原告喜多商事から譲受けた本件各土地の競落権を即日更に東和プラントに譲渡し同会社が競落人たる原告喜多商事ら名義で裁判所に競買残代金を払込み直接右各土地の所有権を取得したもので原告共同商事は本件各土地の所有権を取得していない旨の反論が失当であることは前記(二)で説示したとおりである。

2  本件各土地の本税課税標準について

(一)  被告は、原告共同商事の右の五二〇〇万円の対価による本件(1)ないし(17)の土地一七筆の取得は法五九三条二項にいう「著しく低い価額による土地の取得」に該当するから、本税を賦課するについては同条及び施行令五四条の三四第二項一号により右各土地を取得するために通常要する価額をもつて取得価額とみなすべきである旨主張するのでこの点につき検討する。

(二)  まず、法五九三条二項にいう「著しく低い価額」の意義につき法及び施行令は何ら具体的基準を定めていないが、右「著しく低い価額」とは、当該土地の取得に通常要する価額(いわゆる時価)、すなわち、当該土地の近傍類似の土地の通常の取引価額、若しくは地価公示価額等に比準した価額(比準相当価額)と対比して相当低い価額を指し、これをより具体的にいえば、当該土地の比準相当価額(時価)の二分の一に満たない価額を指すものと解すべきである。

けだし、法五九三条二項と同様に租税徴収の確保を目的として設けられた規定で、同条と同趣旨の文言を有する所得税法五九条一項二号を受けて具体的に低額譲渡の範囲を定めた同法施行令一六九条は、譲渡時の物件の価額の二分の一に満たない金額の譲渡をもつて時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲に該当する旨規定しており、右規定は法五九三条二項の「著しく低い価額」の解釈につき、参考にされてよいと考えられるからである(昭和二九年五月一三日自乙市発第二二号各都道府県知事宛自治庁次長通達第九章第一節四(3)参照)。

(三)  そこで、本件(1)ないし(17)の土地の「取得のために通常要する価額」すなわち「比準相当価額」を算定することにする。

(1) いずれも成立に争いのない乙第一六、第一七号証及び弁論の全趣旨によると、「横浜市固定資産評価事務取扱要領」(以下「評価要領」という。)は、昭和三八年自治大臣告示第一五八号にかかる法三八八条一項所定の「固定資産評価基準」にのつとつて横浜市が課税対象固定資産の評価事務準則の細目を定めたものである事実が認められ、その内容は十分合理的なものといえる。

(2) そして、いずれも成立に争いのない乙第八ないし第一一号証並びに弁論の全趣旨によると、地価公示法所定の公示地の不足地点を補うため国土利用計画法施行令九条一項の規定により設けられた、本件各土地と同一の近隣地域に存する横浜市戸塚区戸塚字一九の区四六〇〇番一三土地の昭和五三年七月一日時点における標準価額は一平方メートル当たり六万七〇〇〇円、同土地及び本件各土地の固定資産評価の正面路線価はそれぞれ二万三〇〇〇円及び二万二〇〇〇円であつた事実が認められるので、右正面路線価の比率に従つて本件各土地の比準相当価額の平均単価を算出すると次のとおり一平方メートル当たり六万四〇八六円となることは計数上明らかである。

平均単価=6万7000円(基準地価額)×2万2000円/2万3000円(比率)=6万4086円

(3) 進んで本件各土地につき、崖、法(のり)、傾斜角度、地形(じがた)等の個別的な要因を考慮して各筆の比準相当価額を算出するに当たつて別紙「各筆の比準相当価額の算出について」記載のとおりの手法によることは、前記評価要領に照らして妥当なものと認められるところ、右手法によつて本件一七筆の土地の各筆の比準相当価額(「一平方メートル当たりの単価」、「各筆毎の総価額」及びその「二分の一相当額」)を算出すると、別表(三)「比準相当額」欄記載のとおりとなることは計数上明らかである。

(四)  原告共同商事の本件一七筆の土地各筆の取得価額は全一七筆の合計取得価額が前示のとおり五二〇〇万円であるからこれを次の算式により各筆の固定資産税課税標準となるべき価額で按分算出することが相当であると解される。

しかして右算出の結果が別表(三)「算出取得価額」欄記載のとおりとなることは計数上明らかである。

各筆の算出取得価額=5200万円(全筆の合計取得価額)×当該各筆の固定資産課税標準となるべき価額/全筆の固定資産課税標準となるべき価額の合計

(五)  そこで、本件一七筆の土地につき、同表記載の前記(三)の「比準相当価額の二分の一相当額」と右(四)の原告共同商事の「算出取得価額」とを比較すると、本件一七筆全部につき算出取得価額の方が下回つていることは明らかであつて、同原告の本件一七筆の土地の取得はすべて法五九三条二項にいう「著しく低い価額による土地の取得」に該当するので、同条及び施行令五四条の三四第二項一号により右各土地の取得につき本税を賦課するに当たつては右比準相当価額をもつて取得価額とみなさなければならない。

(六)  それゆえ、同原告の本件一七筆の土地の取得につき賦課される本税の課税標準(みなす取得価額)は、前記(三)の比準相当額の合計額であつて、一億一七三九万七〇〇〇円となることは計数上明らかである。

3  原告共同商事に対する本税額

進んで原告共同商事の本件一七筆の土地の取得につき賦課される本税額について検討する。

(一)  前記二4(一)、(二)のとおり本税額の算定に当たつては右各土地の取得につき賦課される不動産取得税額を控除すべきものであるところ、原告共同商事の本件(1)ないし(17)の土地一七筆の取得価額(みなす取得価額、すなわち比準相当価額)及び固定資産税課税標準となるべき価額は、前記2(三)(3)、二4(三)のとおり、それぞれ別表(三)「比準相当価額」欄及び別表(二)「固定資産税課税標準となるべき価額」欄記載のとおりであつて本件一七筆全部につき取得価額(比準相当価額)が固定資産税課税標準となるべき価額を上回つているから、同原告の右一七筆の土地全部の取得につき本税が賦課されることになる。

(二)  そして、原告共同商事の本件一七筆の土地の取得につき賦課される取得税額は、前記別表(二)「固定資産税課税標準となるべき価額」欄記載の各土地の価額に同税の税率百分の三を乗じたものであるから、その合計額が一一九万五三二〇円となることは計数上明らかである。

(三)  それゆえ、原告共同商事の本件一七筆の土地の取得につき賦課される本税額は次の算式により二三二万六五九〇円となることは計数上明らかである。

本税額=1億1739万7000円(本件17筆の比準相当価額)×0.03(本税率)-119万5320円(取得税額)=232万6590円

(四)  また、原告共同商事が昭和五三年度の本税の申告期限までに所定の申告をしなかつた事実は当事者間に争いがなく、法六〇九条によると右当時の本税の不申告加算金の適用率等は前記二4(五)のとおりであつたから、同原告に賦課される本税の不申告加算金額は次の算式により、二三万二六〇〇円となることは計数上明らかである。

加算金額=232万6000円(本税額。ただし、1000円未満端数切捨て)×0.1(適用率)=23万2600円

(五)  なお、原告共同商事の、同原告取得の本件一七筆の土地の比準相当価額が競落価額に若干の利潤を加算した金四〇〇〇万円程度であるとか、あるいは五二〇〇万円であるとかの反論が失当であることは、前記本件各土地の比準相当価額認定につき縷々説示したところから明らかであるのみならず、更に付言するならば、前記本件比準相当額の算出に当たつては、一般取引価額に比較して低廉であることが顕著な事実に属するとみられる公示地に準ずる国土利用計画法上の神奈川県基準地の標準価額を比準の基礎資料として採用しているのであるから、前記比準相当価額は低額に算出されていることはあつても決して不当に高額に算出されているものではない。

(六)  更に、原告共同商事は、被告は、原告喜多商事、同喜多金属ら四社に対しては、競落代金額をもつてした本件各土地の取得につき比準相当価額と比較して著しく低い価額による取得に該当するか否かを全く検討せず、したがつて比準相当価額によらずそのまま競落価額を取得価額と認めて本税を賦課しながら、原告共同商事に対しては、右競落代金額をはるかに上回る五二〇〇万円をもつてした本件各土地の取得につき比準相当価額と比較して著しく低い価額による取得に該当するとして右比準相当価額により本税を賦課したことは、課税の公平を害し違憲・違法である旨反論するが、前記原告喜多商事、同喜多金属らの本件各土地の取得は、通常の自由な流通市場における取得に比し物件の引渡の履行の確保等につき種々の不安・危険が伴ない勝ちでその必然的結果として競落価額がかなり低くなり勝ちな裁判所の競売手続における取得であつて本件競落価額は裁判所が当該競売手続による取得価額として適正と認めたものであつたところ、他方、原告共同商事の本件各土地の取得は、競落人たる原告喜多商事からの自由な流通市場における取得であると認められるから、彼此その取得価額についての評価につき径庭が生ずるのもけだしやむをえないものというべく、原告共同商事の前記反論も失当である。

四  以上の次第で、被告が原告らに対してした本税及び不申告加算金賦課決定(ただし、審査裁決により取り消された部分を除く。)は前記認定の本税及び不申告加算金の数額と同額であるから何ら違法の廉はなく、原告らの本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川正澄 吉戒修一 太田剛彦)

別紙物件目録及び別表(一)、(二)〈省略〉

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